それってどうなの?

歯の119番

 なぜか歯科に関しては寂しいかな非科学的な治療や不可解な処置方法が今でも横行しています。声の大きい人には逆らえない、習慣として信じられてそれが主流になっている、そんな迷信のような治療や処置方法をあげてみます。

食後すぐに歯ブラシしてはいけない

 食後すぐ歯を磨くと酸で溶けている部分が削られてしまうので、少したってから歯を磨いたほうが良いというわけのわからない記事をネットで見かけます。
 食事した後、お口の中は食べ物、飲み物自体や細菌から作り出される酸で酸性の状態となり、15分から30分程度で唾液の力で中和されもとの状態に戻るとされています。歯が溶ける臨界pHは5.5程度で、その酸性の状態では歯が溶けかかっており、その時に歯を磨くと歯が削れてしまうので良くないというものです。
 歯の表面はエナメル質という、体の皮膚と同じようなもので覆われており、硬く丈夫にできていますが酸には弱いものです。その酸が滞留しないように、食後すぐの歯ブラシが大切とされてきました。
 むし歯になりやすい人はむし歯菌という細菌を持っていて、それにショ糖が加わるとねばねばした被膜を作ってその中に酸が滞留し、むし歯ができます。唾液の力で表面的は酸は中和されますが、ショ糖や食べかすをおけばおくほどテントのような被膜が厚くなり中に滞留した酸によってむし歯ができてきます。したがって食べたら歯をすぐに磨くことが大事です。
 口の中の酸が唾液で中和されてから磨きましょうというのは、肝心のむし歯の発生機序を理解されていないと思われます。溶剤のついたプラスティックをそのまま放置するのと同じようにおかしな話です。
 酸性の食物や飲み物を長時間持続的に取ること、あまり硬い歯ブラシや研磨剤の多く入った歯磨き粉の使用にも注意しましょう。

入れ歯安定剤を使いましょう

 義歯がゆるくなり落ちてくる、義歯の隙間にゴミが挟まり痛くなるそんな時には入れ歯安定剤を使いましょうというテレビコマーシャルが流れています。
 たしかに、義歯が落ちていてどうしようもないとき、隙間が空いているときには、ぴたっとくっつき重宝します。
 ただ、人の骨はたえずつくり変えられており、機能によって変わっていきます。その骨の形を維持するにはある程度荷重が必要です。宇宙飛行士が無重力の中にいると骨に力が加わらず、機能しない骨は弱くなり、地上に降りたときうまく歩けなくなります。それと同じで、食べる機能の中で適切な力が加わることで、義歯を支える顎堤と呼んでいるあごの骨が維持されています。
 入れ歯安定剤を使うと、それがクッションになり、痛みは感じにくいのですが、骨に力が加わらず、あごの骨が吸収されていきます。そうすると義歯とあごの骨の間にますます空隙ができて、義歯が合わない状態になり、その分余計に安定剤の量が増え、悪循環であごの骨の量が減っていきます。あごの骨の高さがなくなり平らな顎堤になると、新しい義歯を作っても、支えがなくなるため安定した義歯はできなくなります。
 急な旅行や入院等で一時的に安定剤を使うのはやむを得ないとしても、長期の安定剤の使用はお勧めできません。安定剤を使い続けるより歯科医院で適切な調整をしてもらうことが大事です。

歯磨き剤で歯を白くする

 テレビや雑誌の通販に歯を白くするという歯磨き剤が売られています。芸能人やアナウンサーが使っていると謳われていたり、かなり値段も高いのが特徴です。この手の販売は今に始まったものではなく、定期的に古くなって売り上げが落ちてくると、新製品が出てはまた盛んに宣伝されるようになります。
 歯磨き剤に含まれる成分は薬事法で規制されていますので、一般に売買されているものには、歯科医院で行うホワイトニングに効果のあるような薬剤は使えません。したがって、多くは、歯の表面の色素等の汚れを研磨して白くするもので、歯を削っていることになりますので、使いすぎは禁物です。
 定期的に歯科医院でクリーニングを受けたり、ホワイトニングをする方が歯の寿命からすると効果的です。
 また、一部の芸能人や政治家は、歯を削って、白いかぶせ物をして歯を真っ白にしています。人工ダイヤの素材を使いかなり白いものまで自由にできるようになりました。見た目は良いのですが、歯を削ると歯の表面の皮膚に当たる部分がなくなり外からの刺激や細菌は入りやすくなります。きれいになったから終わりというのではなく、その歯を維持するために定期的なメインテナンスは必須です。

歯ブラシが悪いから歯周病が治らない

 歯ぐきから血が出て、歯がぐらぐらする。そんな歯周病に悩まされている方も昔よりは少なくなったっと思いますが、まだまだ多いかと思います。
 歯科で治療を受けていても歯ブラシの仕方が悪いと怒られているだけ、やがて痛い手術を受けたり、経時的に歯が抜けていく。むなしいですよね。 

 歯周病にもいろいろな病態があります。その中で経時的に歯が抜けていくような重篤な歯周病は歯周病菌から引き起こされるものです。
 歯周病菌は20歳のころから徐々に性病のように感染して行きます。歯ブラシで口の中をきれいにすることも大事ですが、歯周病菌がいるかどうかのほうが、歯ブラシよりもずっと大事なことです。まずは歯周病菌がいるかいないかの細菌検査を行い、その歯周病菌を増やさないようにすることが大切です。
 歯周病の専門医の方は細菌検査はむだ、歯ブラシが大事、歯周外科で腫れた歯肉を切る手術を勧めます。歯周病というと歯肉の病気のようですが、実際は歯と歯茎の中に入り込んだ細菌や汚れが原因となって、免疫的な防御反応として歯肉が腫れているだけです。原因はあくまで歯についた汚れや細菌にあります。歯のないところに決して歯周病は起こらないのです。2次的に腫れた歯肉を歯周外科手術と称して取り除こうというのはばかげたことです。かえってその場所から細菌が体内に入りこみ、さまざまな疾病を引き起こすことになります。歯周病の手術をして治ったというのはその手術の効果よりもその際に投与される抗菌薬で歯周病菌がダメージを受けることによります。
 歯周病菌の有無をみない歯周病のガイドラインは早急に見直すべきです。
 ひょっとしたら歯ブラシメーカーと関係があるのかもしれませんが、歯ブラシが悪いから歯周病が治らないという患者さんに原因を押し付ける専門家の集まりである学会のガイドラインにはうんざりです。

骨がスカスカで折れそうだから

 骨粗鬆症と骨折の予防でビスフォスフォネート剤という薬を飲んでいる患者さんが増えています。この薬は主に破骨細胞の動きを抑えるものです。骨は破骨細胞が骨を溶かし、その部分に新たに骨芽細胞が骨を作っていきます。このバランスが悪くなると骨粗鬆症になり骨密度が低下し骨折を起こしやすくなるといわれています。
 
 しかし、その破骨細胞はマクロファージという免疫系の要の細胞と同じ起源をもち、炎症があると、その情報は破骨細胞にも伝えられ、免疫反応の大事な役目をしています。人の体は一定ではなく、常に古くなった部分、汚くなった部分、細菌のような敵が侵入した部分を見つけだし、絶えず新しく再生しているのです。その重要な役目をしているのが免疫系であり、破骨細胞もマクロファージと同じように骨の中の異常な部分を見つけ出し、処理しているのです。
 普通は体の中に位置している骨に細菌が入り込むことはまずないので問題が発生しないのですが、歯科領域では歯が骨の中から飛び出て存在していて、むし歯からや抜歯後に、細菌が骨の中に入り込み、骨の炎症を引き起こし、その時にビスフォスフォネート剤を投与され破骨細胞の動きの悪くなった人では戦闘能力が弱くなっていて、骨髄炎から顎骨の壊死を起こすようになります。しかも投与を中止しても破骨細胞の活動が戻るにはかなりの日数がかかるといわれています。
 もちろんビスフォスフォネート剤は骨粗鬆症や骨折の予防のために投与されているわけです。まさに薬は両刃の剣なのです。最近では破骨細胞の働きを止めない骨粗しょう症の薬も開発されてきています。必要性や適応をよく考え選択する必要があると思います。

歯科ユニットは危険

 歯科ユニットには細菌が繁殖し危険な状態なので、除菌するために、次亜塩素酸を生成するこの機械を取り付けると安全ですという記事がネットに出ており、その取り付けた歯科医院の一覧表まで載っています。
 面白いことに歯科診療所ばかりで、滅菌が大事な手術室のあるような大きな病院の記載はありません。
 そもそも、水道水には塩素が入っており、また、流れている水には細菌は繁殖しません。細菌が繁殖するのは、機械を使用せずに水が止まっている状態で塩素が消えた時です。
 したがって、長い休みの時にはその前に、次亜塩素酸や過酸化水素水を機械に入れ、休み明けには、水を循環させ、その薬液を洗い流すことが大事です。
飲みかけたペットボトルを放置しとくと細菌が繁殖しますが、流れている水道のお水に細菌は繁殖しません。日本の水は飲んでも大丈夫なのです。
 過剰に薬液の入った水を使用することは、高い塩素濃度の水を含むのと一緒で、かなり、人体には危険な状態だと思いますし、知らない間のがんの発生にもつながるのではと危惧します。
また、その器械で生成した液を販売しているところもあります。メーカーに言われるままに使わされているようです。一番問題なのはそもそも医療機器として承認されておらず、あとで大きな問題にならなければ良いのですが。

磨き方が悪いとむし歯になる

 食品や化学物質で歯が溶けるのを酸蝕症といい、細菌からでる酸で歯が溶けるのをいわゆるう蝕といってます。

 ほとんどの細菌は代謝の過程で酸を出します。ただ唾液で薄まっているうちはう蝕にはなりにくく、歯の表面に酸が停滞することがう蝕の発生に必要なこととなります。この時にS. mutansがショ糖を餌に作り出すべとべとした被膜はテントのように歯の表面を覆い、唾液の侵入を防ぐとともに、いろいろな細菌を付着させることで、出来た酸で歯の表面が溶けていきます。

この時に歯の表面がフッ素加工されていれば酸で歯が溶けにくくなりますし、高齢になり唾液の量が減っていけば、酸が停滞し、S. mutansを持っていなくてもう蝕になりやすくなってきます。

また、被膜は歯ブラシではまず取り除けません。しかし、歯ブラシは口腔内の全体の細菌量を減らすことで、う蝕の予防や歯周病の悪化を防いだり、誤嚥による肺炎予防のために必要なことです。
 被膜を取り除くためには歯科医院で定期的に清掃を行ってもらうこと、とくにレーザーを使うことで、爆弾を落とされた焼け野原のようになります。また、定期的に行うことで被膜の再生が防げ、お口の中のべとべとがとれてすっきりしていきます。

3mix法?

 3mix法とか3mix-mp法とかいう治療法がもてはやされています。酸素のある環境で繁殖する細菌に対する抗生剤、酸素を嫌う細菌を殺す抗生剤、トリコモナスやピロリ菌の治療に使われる抗生物質を組み合わせて、歯の細菌を死滅させてむし歯を治そうという治療法です。痛みのない治療法として、マスコミの後押しもあってもてはやされています。
 口の中には様々な細菌や真菌類、ウィルス等が存在して共存共栄しています。まず、3種類の薬でそれらの微生物すべてを死滅することは無理です。また、ただそこに置いたからといって深部まで浸透していくものではありません。薬はその代謝経路によって投与法が異なっていたり、逆に投与法によって代謝経路を変えています。また薬は永久的に効いているものでもありません。

 微生物は適度の水分がないと生育できません。したがって薬の有無よりも、水分を遮断できるかどうかのほうが細菌の増殖に重要なのです。その適度の水分を細菌活性と言い、食物の保存に指針となっています。また、生体には様々の敵と戦う免疫機構が備えられ、水分が遮断されて、新たな細菌の繁殖や流入が防がれていれば、生体は歯の中の細菌等の敵を攻撃し、自己を修復、守ろうとします。敵となる細菌量などの炎症誘発因子と生体の免疫力のバランスで、病気になるか、健康になるか決まってきます。

 歯についた細菌をすべて取ろうとすると、痛みが出たり、逆に生体の免疫力を弱め、細菌の侵入の手助けをすることになってしまいますし、全部の細菌を取り除くことは無理な話です。むし歯の治療は痛みのでない範囲で可及的に細菌を除去したら、痛みを抑える薬や消毒薬を入れて、水分が入らないように、むし歯で柔らかくなっていない歯質をセメントの結合部にして閉鎖することが大事です。残った細菌は水分の欠乏と生体の免疫力で死滅して、汚れた部分を生体は作り変えていきます。これは昔からのむし歯の治療の基本です。
 
 また、1度治療してうまくいった場合でも、どこかからまた隙間が出来て水分とともに細菌が侵入するようになればまた悪くなっていきます。
 歯にはひびが入るし、セメントが壊れることもあるし、柑橘オレンジの抽出液は神経の穴をふさいだものを溶かすのに使いますが、自然のこういった溶液が治療した部分を溶かすこともあり得ることです。それ故、治療が終わっても、歯医者さんで定期的に検診していくことが大切です。

抗菌グッズと殺菌水

 お店に行くと抗菌処理をした様々なグッズが売られています。確かにそのものがきれいなのはうれしいことです。
しかし、私たちの周りには目に見えないだけでたくさんの小さな生き物たちが存在しています。その中で抗菌グッズがどれほど効果あるかは疑問です。
 また、殺菌効果のある液体で口腔内を洗うことで、むし歯や歯周病を治すという方法がマスコミ等で取り上げられています。たしかにむし歯も歯周病もある種の細菌が原因で起こり、それらの細菌を殺すことは意義あることですが、口腔内のすべての細菌を殺すという発想はどうかと思います。
 口腔内の過剰な細菌は危険ですが、まったく細菌のいない口腔内も危険な状態です。生き物の全くいない世界に人間だけが生きられるわけがありません。

口腔がん検診で診てもらったから安心

 あちこちの歯科医師会で口腔がん検診が始まりました。ほとんどが不定期で継続的なものはないのが現状です。

 一方、がん検診のガイドラインが国立がん研究所から平成初期に出され、肺がん、大腸がん、胃がん、乳がん、子宮頸がん以外のがん検診は検診をしたことにより死亡率が下がるというエビデンスが得られていないために、税金等を使い行政で行うべき出ないとの指針が出され、厚生労働省も日本医師会もそれに従っています。口腔がん検診は歯科医師会の中だけで行われているがん検診で、効果は不明です。

 がんの進行は早く、特に死亡にいたる悪性度の高いものは進行が早いものです。口腔がんが気になったら、何年かに一度の歯科医師会の口腔がん検診に行くよりも、何ヶ月かおきに定期的に歯科医院を訪れてチェックしてもらうこと、特に、舌や歯肉に痛みがなく、傷が出来てきた場合には早急に歯科医院でチェックしてもらい、迅速な対応をしてもらうことが大事です。

専門医とは

 学会ごとに専門医や認定医が作られています。
 歯科大学の数が増え教授が増えると、学会のトップになかなかなれないために、学会の数が増えて行きます。そして、学会の長になり退任していく教授がほとんどです。増えた学会を維持するために、専門医制度や認定制度を作り、会員から学会費用を集め、定期的に学会に参加し、ノルマを果たすことで専門医や認定医を認定するというからくりになっています。また、それによって学会や医局講座の維持にも役立っています。もちろん、学会に参加して勉強することは有用なことです。ただ、あまりにも多くの学会が存在し、一分野の専門医になることが、真に患者さんのためになるかどうかは疑問です。いろいろな学会に参加し、幅広い知識を持った人の方が、多くの患者さんのためになるのではないでしょうか。
 昔、学生だったころ、元海軍にいた教授から、一流の人間になりなさいと指導を受けたことがあります。学問だけでなく、芸術や趣味にも造詣を深くし、人間性の高い、趣のある人になりなさいとの事でした。
なかなか難しいですが、自分なりに一流の人間とは絶えず向上心を持って努力をする人ではないかと考えています。
 歯科界に多い、井の中の蛙にならないよう、謙虚に努力し続けたいと思っています。

タイトルとURLをコピーしました